「建築家(設計事務所)に頼むメリットって結局何?」
こんな話を度々聞きます。
情報量の多い昨今ですら一般の人にはなかなか理解し辛いようです。
という事で以前工務店に勤めていた経験もある僕なりの視点で”建築家に頼む理由”というのを、住宅を例にとって書いてみようと思います。
結論から言ってしまうと
「なんでも出来る事」
「コスト管理」
この2点です。
まず「なんでも出来る事」
という点ですが、デザインに特化しているのはもちろんですが、建築家は(多少の差はあるとは思いますが)例えば工務店やハウスメーカーがうたっているように
”無垢材で自然に優しい住宅”
とか
”高気密高断熱の家”
こういった住宅は設計可能です。
というより、工務店勤務経験の観点からいうと一般的な工務店やハウスメーカーよりも深く考えている方が多いです。
工務店やハウスメーカーは性能や無垢材を、決まったパターン化する事で社内作業を減らす事
それとメーカーとのパターン化した流通ルートを確立する事で費用を抑え、内容もクライアントにとって分かりやすくする仕組みです。
逆説的に言えば”(会社の)パターンから外れた事は出来ない(もしくはルートや高くなる)"という事です。
例えば、間取りを相談しているときに担当者に「吹き抜けを作ると寒くなりますからやめたほうがいい」
というのは
「吹き抜けを作ると(弊社のやり方だと)寒くなりますからやめたほうがいい」
という裏事情的な仕組みです。
実際、吹き抜けを作る事で熱環境をよくする仕組みを構成したり、設備での補う方法などはあるのですが、それをすると高くなる=費用対効果を考える必要がある。
このようになるのですが、残念ながら多くの工務店やハウスメーカーはこの検討を行ってくれません。
なぜなら上記のように”決まったパターン化する事で内部作業を減らす事”をしなければならないからです。
では建築家はというと、そういった検討をします。
というか知的好奇心豊富な職種なので、多分検討したがります(笑)
その結果、どうするかは検討結果を用いてのクライアントとの相談になりますが・・・
無垢材使用等の理由も同じで、工務店やハウスメーカーにはパターン化のフォーマットがあるので”社内作業を減らしつつ価格を抑えつつ”というシステムです。
そういった理由なので、例えば「見積もりで見てあるのはこの無垢フローリングですが、金額を抑えたいならグレードダウンしたこっちの無垢フローリングです」
という話をされます。
では建築家はどうかというと、経験則的に「このプランとこのクライアントの予算だと〇〇社のあの無垢フローリングだな」という感じに最初は選んでおきます。
その後、問題なければそのまま進めていきますが、金額を抑えなければならないときは他社の無垢フローリングを複数検討していきます。
というのも、設計事務所(建築家)は施工会社ではないので特定のメーカーとの決まった流通パターンは存在しません。
(よく使うメーカーや建材は各建築家にはありますが)
つまり「よく使うメーカーがない=このメーカーだと値引されるみたいな恩恵がない」という事になります。
そういった理由で、建築家は無垢フローリング1つとっても高い安いの差が激しい業界の中で総合的に様々な検討をしていきます。
このような理由で「建築家はなんでも出来る事」がメリットとなる訳です。
コスト管理についてはすごく明確で、建築家にとっていたずらに建築費用が大きくなる事に対して”メリットがない”んです。
確かに建築費用に比例して設計料も上がるといえば上がりますが、そもそも建築費用が上がった結果クライアントと揉めてしまったり契約できなければ建築家は収入がありません。
それと建築家はクライアントとの”工事契約”は行いません(工事監理契約は行います)
なので建築家と施工会社は、建築を完成させるパートナーではありますが、直接的な金銭のやり取りはありません。
そういった理由でクライアントに変わって工事の見積もりを厳しくチェックするのも職能になってきます。
では「逆に工務店やハウスメーカーのメリットってなに?」となるわけですが、これはもう知識のない一般の人に分かりやすい」という事が大きいです。
パターン化しているという事は選択肢を絞っているという事なので
住宅を建てる際にクライアントに求められるのは「目の前にあるAとB、どちらが良いですか?」という選択肢です。
かなり乱暴な表現ですが”注文住宅”とうたっているものはこのAとBの選択肢が連続して続いていくという事です。
文章で書くと悪意的に感じられますが(笑)住宅を建てるというのは一生に一度の事なので、精神的負担に感じる方が多いのも事実。
そんな中では選択肢が少ない=負担が少ない=安心感というメリットがあります。
続いて、家を建てる際に絶対にNGな事です。
これは、クライアントがA社(工務店やハウスメーカーや建築家全て)でプランニング・見積もりを出してもらったモノをB社(まったくの他社)に持ち込んで
「この内容で安くやってもらえませんか?」という事です。
まず第一にそういった内容を請け負う会社(もしくは事務所)は仕事がルーズです。
持ち込みの内容だと、どこかに「自分が考えたものではないから」という無責任さが出てしまいます。
また、そういったトコは従業員や職人の出入りが激しいです。
結果、完成したものの質が悪いという悪循環を起こしています。
それとプランや金額の責任者不在と同じような状態で進んでいきます。
例えば持ち込んだ図面では”〇〇で〇〇仕上げとする”と書いてあっても、ある程度作業が進んだら
「やっぱりこの仕上げはウチではやった事がなくて出来ません」という事が問題は大小様々な形で起こります。
これが現場がある程度進んでいるときに起こってしまったら最悪の事態です。
クライアントは「B社がやれるといったから依頼した」
B社は「クライアントが持ち込んだ図面でやれと言われたからやった」
などという水掛け論になる場合がほとんどです。
僕が自分が関わった仕事では経験はないですが、そういった悲惨な事例をいくつか見聞きしてきました。
それと、最後にですがそんな事をするとクライアントがA社に訴えられる可能性があります。
日本の場合はまだまだプラン(デザイン)に関する認識が低いのが残念ですが、プランは製作者(会社)の知的財産に属するのでそんな事をすると裁判を起こされるという可能性もあります。
プラン(デザイン)は作成にかかる日数というのは”手を動かした作業日数”ではなく”作成者の感じた事や経験値”です。
そのプラン(デザイン)が生まれるまでに、途方も無い年月の下地があるという事です。
このように今回は暗い(怖い?)内容がブログの最後の内容になってしまいましたが・・・(笑)
家作りは設計者・施工者・クライアントすべてが楽しく進めていく事が何よりも大切です。
次回はこの”楽しく”の部分を掘り下げていければと思います。